事業承継の相談を受ける時、橘 誠一郎認するのは「誰に何を残したいか」という問いです。この問いに答えられないまま手続きを進めると、最終的に「こんなはずではなかった」という結論になりやすい。手続きの前に整理しておくべきことを、五つに絞って説明します。
一:「売却」と「承継」を混同しない ¶
事業承継と売却は、目的が異なります。承継は「事業を続けること」を前提とし、売却は「経営権を移転すること」を前提とします。どちらが正解かは、経営者が何を大切にしているかによります。まずこの二つを分けて考えることが、出発点です。
二:後継者候補を早めに複数挙げる ¶
後継者を一人に絞るのは、最終段階でいい。最初は「この人かもしれない」という候補を複数挙げておくことが重要です。親族内、従業員、外部招聘の三つの選択肢を並べて検討する時間を、少なくとも2〜3年は確保してください。
三:財務の実態を正確に把握する ¶
承継の交渉に入る前に、自社の財務状態を第三者が見てわかる形に整理しておく必要があります。特に、オーナー経営者の個人的な支出が会社の経費に混在しているケースは多い。これを整理しないまま進めると、バリュエーションの議論で不利になります。
四:取引先・従業員への説明計画を作る ¶
承継が決まった後、最初に動揺するのは取引先と従業員です。誰に、いつ、どの順番で伝えるかを事前に計画しておかないと、情報が漏れた時に混乱が広がります。説明の順序と内容を、承継の合意と同時に設計しておくことを勧めます。
五:「自分がいなくなった後」を具体的に想像する ¶
最後に、最も難しい問いです。承継が完了した後、自分はどこで何をしているか。この問いに答えられない経営者は、承継のプロセスを無意識に遅らせる傾向があります。承継は終わりではなく、次のフェーズの始まりです。この問いと向き合う時間を、早めに作ってください。
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